1月2日から5日の予定で山に行ってきました 今回は妻と増田氏と私の三人
元日の夕方発の車両はがらがらです お互い新年の挨拶をかわして 21時ホテル着 明朝6時集合と決め 各自部屋へ
1月2日5:50amチェックアウト ホテル前でいつもの ドライバーKさんと挨拶の後 釜トンネル入り口へと向う
未だ暗い国道158号線の町並みを抜け 波田町を過ぎた風穴のあたりで 夜が明ける いよいよ山の景色が迫ってくる
7:30am釜トンネルに到着 空気の冷たさが ヒーターで弛緩していた身体を 一気に目覚めさせてくれる
身支度を終え 7:50am出発 ポールの調子が悪い事に気付き いきなり暗くなるも・・・ 暮れに購入したアークテリクス ボラ 95Lのザックの
調子が良く すぐに機嫌を直す
パーティーの足音とアスファルトに当たるポールの音だけが響くトンネルの中 ほのかな明かりを頼りに歩いていると
なんとも不思議な感覚に陥いる シーズン中 沢山の車の中に混じって 数分で通過してしまっていた場所を
今は3人だけで 自分の足で歩いている・・・・ 電灯近くを通る時 長い間に排気ガスがこびりついたトンネルの天井や壁を見ると
息苦しくなってくる 約1.3Km ようやく明るい外へ出る
目の前に映るモノトーンの景色 厳冬の時だけに感じられる水や雪・植物の呼吸が入り混じった大気の匂いと ほほをさす鋭い空気
いよいよ別世界への入り口です
<氷点下の大正池>
道は除雪車が入ったようで圧雪されていて歩きやすく 登山靴に踏みしめられキッキュキュシュキュッシュと 雪の締まる音が楽しいです
ペースは快調 大正池ホテル前での休憩もせずに 帝国ホテルを通過して一気に上高地駐車場に10:00am到着 小休止
かなり気温が低く 短い休憩の間にも 急速に身体が冷えてくるので 早めに行動を開始する
テントの数が思いのほか多いのに驚きながら 小梨平のキャンプ場を抜けて穂高神社奥宮へ向かう
全員絶好調 しかしザックは重い・・・時々「うーー」だの「うぐっ」だのと呻きながら ザックをゆすり上げる
<堅く締まった雪のルート>
<美しい林と光!>
<初詣 今年も無事に登山出来ますように>
予定より早く穂高神社に到着したので お参りの後 明神池に行くことにする
普段は観光客だらけで めったに立ち寄らないのですが この季節の美しさは 言葉になりません
<荘厳な景色に見入るパートナーと 顔を洗う私>
池に映り込む 空と明神岳と冬枯れの梢 まったくの静寂 なんという神々しさ
神の降り立つ地 神降地 訪れて良かった・・・
明神を過ぎると もう1ピッチで今日の目的地 徳沢です
ルートを外れた林の中には 野生動物の足跡がそこここにみられます
私に判る足跡は 兎くらいですが カモシカや猿たちも自由に活動をしているのでしょう
「おじゃまします」の気持ちで 進みます
正面に常念岳が見えてきました 真っ白な三角形をした穏やかな山容は ほれぼれするほど美しいです
以前は年に数回は通っていたのですが 仲の良い 山小屋のスタッフが事情があって山を降りてしまってから
足が遠のいてしまいました 彼とは20数年前にカメラマンの林さんの紹介で知り合い 山の生活や季節の移り変わり
本当にいろいろな事を 教えていただきました 彼に会いに山に通ったような時期もありました
現在彼は 奥さんと二人の幼い女の子の父親になって山の麓で暮らしています
荒々しい岩峰に雪を張り付けた明神岳を仰ぎ見ながら進みます なんとも爽快な気分です
空にまっすぐ背を伸ばすカラマツ 梓川の中洲に赤く色付いたケショウヤナギ 右手にハルニレの林が見えてきました
右に折れると私たちの お気に入りの場所そして今日の幕営地 徳沢です
<余裕の整地作業とテント設営>
1:30pmテントサイト到着 予定より早かったのでテント設営や食事スペースなどに時間をかけて作業をすることが出来ました
雪を掘ってベンチを作り 夕食の準備に取り掛かります まだまだ陽は明るく お日様の下で夕食なんて夢のようです
・・・・ところが・・・
まずはお湯を沸かす為 コンロとガスカートリッジを用意したのですが2個持ってきたはずのガスが一つしかないことに気づきました
ザックの中身を全部出しても見つかりません ヤッテシマイマシタ!大呆けです!
自宅で準備をしていたときに 大きなコッヘルの中にガスを入れていたのですが パッキングの際 大きなコッヘルは かさ張るので
持つのをやめたのです が ガスカートリッジもそのまま・・・
冬の徳沢は水が無く 雪を溶かして飲料水を作ります 今 水筒にある水は夕食のために使えるとして
明日の朝から明後日の昼までの分は作っておく必要があります そして燃料は明らかに足りません
最低最悪の気分に陥るも・・・でも何とかなるわいさ と気を取り直して 熱い讃岐うどんをすすりました
腹の中から暖まった状態でテントに入ります 外は まだ薄明るい・・・
足先ホカロンをインナー靴下の上に張り 極厚のスマートウールの靴下をその上から履いて
オーバージャケット以外は全て着込み フリースのネックウォーマーで鼻まで覆い カシミヤのキャップを被って
シュラフに入り「遥かなる未踏峰」を読む 相変わらずのアーチャー節(かなり うんざりです・・)ヘッドランプでの読書用程度・・・
快晴の夜は かなりの冷え込みが予想されるので 出来る限りの防寒をして備えます
明朝は6:00出発 長塀尾根から蝶ヶ岳に登り 横尾に下山してベースキャンプに戻る8時間行程のプランです
5:30pm ヘッドランプを消し頭の上でシュラフの口を閉じて・・ 眠る
<♪あぁすは ゆぅこぉよ あのやぁまぁ 越えてぇ♪>
寒くて目が覚めるが 良く寝た感じで時計を見ると9:30pm 得した気分 用足しに行きたいが寒くてシュラフから出られず
しばらく目を閉じていたが 勇気を出してシュラフを開けてオーバージャケットを着る その時テントの壁に手が当たって何かが
パラパラと落ちてきました ヘッドランプを点けると テントの内側一面に細かな氷が付着していました
私たちの息や暖められた空気が 外気で冷やされてテント内で凍ったのでしょう 寒いはずです
足元に置いていた靴も外側と紐の部分は凍っています 外に出た時 隣のテントの増田氏から「凄い 星ですよぉ」と
声をかけられました 見れば・・・ 信じられない程の無数の星々 風の無い乾燥した空気の中で 瞬きもせず光を発しています
子供の頃 渋谷の五島プラネタリウムで初めて体験し 天体の不思議と夢中になった神話の世界
ギリシャ神話の神々の残酷さ 星座の成り立ちの話は 天文学よりも 読み物として興味を覚えました
それ以来 いつも夜空を見上げては 最初に探すのが カシオペアと オリオン座でした
「誰でも知ってるオリオン座」 高校時代 冬の夜空を見上げてオリオン座を見つけたときに呟く おまじないのような言葉・・・
キンキンに冷えて固まった徳沢の雪の上を歩きながら 夜空に 冬の大三角形を描きました
シュラフに戻って目を閉じても なかなか身体は暖まりません じっと動かないで寝袋と身体の間の空気が暖まるのを待ちます
隣で寝ているパートナーは 寝苦しいのか度々寝返りをうっています 浅い眠りのなか寒さで目が覚めることを繰り返して
何度目かの時 頭から離れなかったガスカートリッジのの問題を考えはじめました
明日のルートを考えると ベースキャンプに戻ってくるのは 4:00pm頃です それから雪を溶かして夕食を作り 翌日の水を
準備するためには 今の燃料の倍は必要です 増田氏が予備のガスを 貸してくれると言ってくれてはいますが 足りるかどうかは微妙です
燃料不足で 温かい飲み物や食事を十分摂れずに この極寒の夜をもう一晩過ごすのは かなり厳しいといわざるを得ません
自分自身のミスで(それも命に関わる燃料を忘れるという致命的ミスです)皆に迷惑をかけ 今回の計画を台無しにしてしまう事に
私は恥ずかしく 申し訳ない気持ちで一杯になりました
悶々として迎えた朝 妻に撤退の意思を伝えたところ 「そうしましょう」と同意 増田氏にはテント越しに声をかけると妥協案が返ってきましたが
受け入れてくれました 明るくなった7:30am撤収開始 驚いたことに全てが凍っています 水筒の水 パン クッキー みかん等々
テントポールの継ぎ目も凍りついていてお湯をかけながら一つづつ抜きます その間も足元から冷気が凍みて来て
足全体が痺れて膨れ上がったような感覚で 何も感じない状態になっていました 8:00am出発 朝食は しばらく歩いて
身体が暖まってからにすることにしました 妻は 凍ったパンが柔らかくなるように着ているフリースの中に入れていました
昨日と同じく 無風 快晴 完璧な登山日和なのに・・・・本当に みんな ごめんなさい!
<輝く明神岳の岩峰>
30分程で明神到着 温かい飲み物を作って凍ったクッキーを食べ エネルギー補給
雪道は昨夜の寒気で 一段と締まって歩きやすい 途中小さな沢を渡るとき 可愛いものを発見
こちらです
<雪の花>
10:20am河童橋到着 携帯電話の圏内にはいったので 白骨温泉に宿泊の変更とドライバーのKさんには迎えをお願いしました
橋の脇のベンチで小休止 群青の空に聳える穂高の山々その足元に広がる涸沢のカール
高校生の春に 兄や従兄弟達と初めて上高地を訪れました まだマイカー規制も無く駐車場も小さな頃です
河童橋までの川沿いの僅かな距離を歩いたのですが 残雪を頂いて輝きそびえ立つ 生まれて初めて見る3,000m峰の山々
何処までも高い空にまっすぐ立つ カラマツの木々と清々しい空気に なんという神々しさだろう!日本に こんなに美しい場所があったのか!
その頃は遠足や林間学校の登山でしか 山を知らない私でしたので(それも いやいや登らされていた)
そのあまりに日本離れした光景に 圧倒されてしまいました
夜明け頃 大正池の前で車を止め見た 朝の光を受け輝いていた焼岳の美しさ そして目の前に広がる 雄大な穂高の連なり・・・
あの山のどこかに入りたい あの大きな自然の中に溶け込みたい 登山をするとか頂上に立つ ではなく「山の中にいたい」と思いました
それは今も私の山登りの基本になっています もちろん苦労して頂上を踏めた時も最高の気分ですが 土と緑 水や光 自然界にある
様々なものを溶かし発散している大気の中に ただいるだけで満足なのです
<涸沢と穂高の山々>
最後の休憩を終え歩きだします しっかりと踏み固められた雪道を快調に行きます
大正池に張った氷が昨日より広い範囲まで広がっていました 昨夜はかなり冷えたのでしょう
13:30pm予定通りゲートに到着 待っていてくださったKさんの車で 白骨温泉に向かいました
<常宿の山水館湯川荘>
途中 乗鞍高原でKさんお勧めの わらじのように大きなカツを使ったカツ丼を出す店に案内していただきました
昨夜のうどん以来 まともな物を食べていなかったので Kさんの 超特大カツ丼の言葉に 皆激しく反応
運ばれてきたものは・・・いままでの 丼物で最大でした 久しぶりに 途中ギブアップしかかりながらも 残さず食べることが出来ました
3:00pm旅館に到着 待ちに待っていた温泉です みんな お疲れ様でした
date: Jan. 2, 2011~Jan. 5, 2011
party: Hideko Takekawa Katunaga Masuda Fuyuki suyama
photographer: Masuda Katunaga
special thanks: 倉田さん 斎藤さんご夫妻(山水館湯川荘)三城の女将さん
others:上高地の猿(1匹) 明神池の鴨 松本 犀川の白鳥
music: 「まちは裸ですわりこんでいる」友部正人 「時にまかせて」かねのぶさちこ 「DON’T LET ME DOWN」The Beatls
「自由への長い旅」岡林信康 「かもめの水兵さん」キングレコード(今回の山旅中ずっと頭の中で鳴っていた曲)